企業における障がい者のキャリア形成 ~後編~

こんにちは。オフィス温度28℃の梶原です。

 

前号では、企業における障がい者のキャリア形成(前編)として、障がいを持つ社員を評価する基準の中でも、主に「体調管理と周囲への配慮に関する基準」についてお話ししました。

※前回の記事はこちらから
企業における障がい者のキャリア形成 ~前編~

 

今号では、「業務スキル基準」についてお話ししたいと思います。

 

「改正障害者雇用促進法」に基づく施策により、企業における障がい者の雇用が増加していることは大変喜ばしいことですが、これからは、障がいを持つ社員が事業に貢献する存在としてどれだけ活躍できるか?が求められていると感じます。

せっかく採用したのにその人のスキルを活かしきれず、ただ雇用しているだけ、という状況は、会社目線で言えば、非常にもったいないことです。そして社員目線で言えば、その企業で働くことの意義を感じることができず、早々により給与などの条件が良い企業への転職を考えることにも繋がりかねません。

 

こうした残念なことが起きない様に、人事は社員に求める「業務スキル基準」を設定することが大切だと考えます。

 

では具体的にお話ししていきましょう。

例えば、データ入力を行う部署であれば、入力のスピード、正確性などについて具体的な達成基準を設けます。また、備品管理の部署であれば、在庫を適正に管理して欠品を出さないのと同時に過剰在庫を持たないことや、より安価で質の良い代替品を提案できる、などがスキル目標に対する達成基準になるでしょう。

この様に各部署の具体的な実務に対して、「●●までできたらA評価」という基準を示し(目標設定時は「SMARTの法則」を参考に)、PDCAのサイクルを回していきます。

※SMARTの法則
-----------------------------------
Specific  = 具体的、わかりやすい
Measurable  = 計測可能、数字になっている
Agreed upon = 同意して、達成可能な
Realistic  = 現実的で結果志向
Timely  = 期限が明確
-----------------------------------

 

業務スキル基準を設定するための、3つのポイント

次に、業務スキル基準を設定するあたり、大切な3つのポイントについてお話ししましょう。

 

1つは、個人の目標が事業の発展・継続に繋がっていることを明示することです。言い換えると、自分は何のためにこの仕事をしているのか?という問いの答えが会社の理念の実現に結びついているかどうか?です。

心身のコンディションに不安を抱きながら働く障がい者の中には、毎日休まずに出社できることが目の前の目標となっている人も少なくありません。この目標設定も決して間違いではなく、前号で述べた「体調管理に関する評価基準」としては欠かせないものです。

しかし、業務スキル基準として考えた時には、もう一段上の視点を持ってもらうことが大切です。自分が行っている業務が、どこの部署にどう繋がり、その部署の先には、商品やサービスを提供しているお客様がいて、会社はお客様からその対価を受け取っているということを理解してもらいましょう。一度で腹落ちしてもらうのは難しいかもしれませんので、上長や人事が繰り返し伝え続けていくことが大切です。

 

2つ目は、各人に応じたスキル基準を設定することです。職歴があってスキルが高いから、高い目標設定をすることが良いとは限りません。逆も然りです。特に精神障がいを持った方の中には、高い目標設定がストレスの要因になる可能性があることは留意点となります。目標の高さはコンディションをよく見ながらその社員自身も納得する形で設定し、その後も必要に応じて調整していくことが大切です。

 

これはスキル基準ではなく、目標設定のお話にはなりますが、複数メンバーで業務を行っている組織であれば、各人の“強いところ”を活かし合えるような目標を設定することもお勧めの方法です。

例えば、人と関わることが好きなメンバーには、他のメンバーに業務をレクチャーする役割を担ってもらうと良いと思います。また、きっちりと抜け漏れなく正確な仕事が得意なメンバーには、業務マニュアルの作成や更新をお願いすると良いでしょう。

 

3つ目は、フィードバックの重要性です。

上述の2つ目で例として挙げた業務レクチャーであればレクチャーを受けた他のメンバーから説明がわかりやすかったか?などの感想をもらいます。また、業務マニュアルを作成してもらったなら、そのマニュアルを見て業務を行ったメンバーから気づいた点などのフィードバックをもらいましょう。

自分が行った業務について、他者からのフィードバックをもらうことは、さらにスキルアップするための重要な要素です。その際、他のメンバーからのフィードバックで終わるのではなく、上長(あるいは人事)が、中立的・客観的な立場でフィードバックをまとめることも欠かすことができません。上長(人事)の“まとめ”は、本人だけでなく、他のメンバーにとっても、会社が求めている内容やレベルを理解することであり、それは業務レベルのアップへと繋がりますので、ぜひ実行していただきたいと思います。

そして、本人へは、業務スキル評価として事前に設定した達成基準に照らして評価を行い、次への成長を促していきます。

 

以上が、「業務スキル基準」に関するお話でした。

 

少し別のお話になりますが、私は、ロボットやヒューマンインターフェースの研究から派生する形で幸福学を研究されている慶応義塾大学大学院の前野隆司教授のお考えに強く賛同しているのですが、先生の研究によると、長続きする幸せとは、お金・モノ・地位などの他人と比べられる「地位財」ではなく、環境に恵まれているという幸せや健康であるという幸せに加えて、

  1. 「自己実現と成長」=夢や目標ややりがいを持ち、それらを実現しようと成長していくこと
  2. 「つながりと感謝」=人を喜ばせること、愛情に満ちた関係、親切な行為をすることや受けること
  3. 「前向きと楽観」=自己肯定感が高く、いつも楽しく笑顔でいられること
  4. 「独立とマイペース」=他人と比較せずに自分らしくやっていけること

の4つの因子があるといいます。
(詳しくは前野先生の著書をご一読ください)

障がいを持つ方々が、働くことでこの幸せ感を高めていくことができる組織創り・企業創り・社会創りとは何なのか?を引き続き模索していきたいと思います。

 

<プロフィール> オフィス温度28℃代表。専門分野は、障がい者の雇用支援、人材育成、キャリア支援。「自身の特性に向き合う人たちが尊重し合い、自走しながら事業に貢献する組織創り」を基本理念としている。 梶原 温美(かじはら はるみ)
オフィス温度28℃代表。
専門分野は、障がい者の雇用支援、人材育成、キャリア支援。
「自身の特性に向き合う人たちが尊重し合い、自走しながら事業に貢献する組織創り」を基本理念としている。
問い合わせ先
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この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障がい者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。

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