もし合理的配慮として就業規則外の通勤ルートを求められたら・・・

2016年施行改正障害者雇用促進法では、障がい者を雇用するにあたり合理的配慮を提供するよう、事業主に義務を課しています。合理的配慮の事例は内閣府が事例集を作っていますが、中身はまだこれから充実していくものとなっているようです。今回の記事では、合理的配慮の事例を紹介させていただきます。

この記事のポイント

  • 通勤に関する配慮を求められて…
  • 会社が提供した合理的配慮は…?
  • 労働局の見解も踏まえて線引きを

ある企業で精神障がい者Aさんを雇用しました。

この企業では通勤手当の支給について、最も経費の少ないルートでの支給を就業規則に定めていました。

Aさんは2つの目的のために別のルートでの通勤及び手当の支給を要望しました。

  1. 通勤の負担を軽くするため、座席に座れるようになる路線終点駅にての乗り換え
  2. 通勤時間を利用して勉強するため、座席に座れるようになる路線終点駅にての乗り換え

厚生労働省のガイドラインには、障がいの特性を把握して通勤ラッシュを避けるために勤務時間を変更する等の配慮は、合理的配慮として提供すべきと明記されています。また合理的かどうかの判断は、事業への影響度や実現困難性等と照らしあわせて労働者と協議して検討すべきとされています。

会社の人事担当者は、合理的配慮を提供するためにまずはAさんと協議を行いました。

その協議の中で障がい特性について詳細に聞き取りをしました。その結果、通勤ルートについては、障がい者の希望として認めてそのルートでの通勤を容認しました。しかし、通勤手当については例外として認めず、他の社員同様最も経費の少ない金額を支給することとしました。

この会社の判断は、この障がい者の特性を把握し考慮した結果出されたものでした。Aさんの特性は、うつによる精神障がいであり満員電車や人混みでのパニック発作は併発していなかったのです。

この決定をAさんに伝達したところ、はじめは不満であることを漏らしましたが、就業規則で定められていることを確認し了承をしました。

以下はやり取りをかいつまんだものです。

人事担当者「○○さん、お疲れ様です。先日ご要望のあった通勤ルートと手当支給についてお伝えします。」

Aさん「お疲れ様です。認めていただけたでしょうか?」

人事担当者「はい、会社としてはAさんの通勤に過度な負担が生じさせないために、Aさんがご希望の経路で通勤していただくことは問題ありません。ご希望の経路で通勤なさってください。」

Aさん「ありがとうございます。支給される手当も少し増えるということでよろしいしょうか?」

人事担当者「いいえ、会社から支給される通勤手当は先日お伝えした安い経路の分の定期代に相当する金額になりますので、ご希望の経路との差額分はご自身で負担いただくようになります。」

Aさん「えぇ?どうしてですか?私は履歴書にもこの経路での通勤を希望する旨を記載しておりますし、面接時にもそのルートで通勤したいとお伝えしていましたよね?」

人事担当者「はい、承知しておりました。しかし、社の就業規則で他にお勤めの皆さんに同じように支給しております。また、先日確認させていただきましたが、Aさんのうつの症状では混みあった電車や人混みによって症状が出ることはないと伺いました。Aさんのご負担が軽くなるように通勤の経路を変更していただくことも、お時間をずらすことも可能です。しかし、その場合でも勤務時間が変更になればその分お給料も当然変更します。それは障がいのあるないに関わらず皆さん同じことなのです。どうかご了承ください。」

Aさん「では、就業規則を一度確認させていただけますか?」

人事担当者「どうぞ、ぜひご確認をよろしくお願いします。」

Aさん「そうですか、確かにここに定められています。面接時に社の規則に従う旨はお伝えしてありましたので、一部不支給の点は承りました・・・。お財布は寂しがっていますが(苦笑)」

人事担当者「ご了承いただけて良かったです。ありがとうございます。もし他にもご体調と関わる就業環境等について、なにかありましたらすぐにお声掛けくださいね。会社としてできることも多くあると思います。まずはAさんに安定してお勤めいただくことが一番ですので。」

Aさん「こちらこそ、ありがとうございます。また何かございましたら相談に乗ってください。」

今回のケースは合理的配慮の提供として妥当かどうか、東京労働局職業安定部職業対策課のご担当者に確認をしました。

回答は、合理的配慮の提供について、労働者の障がい特性に応じて配慮することが障害者雇用促進法の趣旨であり、今回のケースについて会社の判断は間違っておらず、合理的配慮の不提供には当たらないということでした。どこまでを合理的配慮の提供とする、という線引きはあくまでその方の障がい特性に紐付けられるということです。企業として、障がい者には何でもかんでも全て配慮していけば良いというものではなく、お一人お一人の障がい特性を把握することを第一の視点として持つことが求められています。だからこそ企業の人事担当者は障がい者雇用に対する正しい知識が求められます。

(参考)
障害者差別禁止・合理的配慮の提供義務に関する相談担当窓口について(厚生労働省)

合理的配慮等具体例データ集・合理的配慮サーチ(内閣府)

 


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この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障がい者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。

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