障がい者への業務の切り出し方

最近、頻繁に障がいに関するTV番組やネット記事を目にするようになりました。NHKでは発達障がいに関する特集番組を連日のように放映しています。内容は専門的すぎず、程よい情報量を程よい時間で構成されていて、視聴者側にとっても、受け入れやすいものなのではないかと感じています。

背景としては、2020年のパラリンピック開催に加えて、官公庁の障がい者雇用数の水増し問題があることは明らかですが、特に精神障がいについて取り上げるメディアが増えてきたことは、まだまだ世の中で誤解が多く、正しく認知されていない実態を考えると、良い流れですね。

さて、今日は障がいを持つ社員の方への業務の切り出しについてお話したいと思います。
障がいを持つ人の雇用を進める上で、企業の人事の方々からは、
「人事以外のどんな部署でどんな仕事を任せればよいのかわからない。」
というご相談が多くあります。
多くの企業で障がい者雇用を進めるステップとしては、まずは自部門(人事)から雇用をスタートし、その後、総務や経理などの間接部門、そしてメーカーであれば製造現場、その後に営業やその他の部門、という流れが多いように思いますが、人事以外の部署の業務は具体的に見えていないこともあり、どのような部署が、障がい者の配属に適しているのか?判断に迷うこともよくあるのではないでしょうか。

また他のお声としてもう一つ。
「どんなスキルを持った人が採用できるかわからない中で、どんな仕事を任せることができるのかがわからない。仕事を切り出すように言われても見当がつかない。」
というお話もよくお聞きします。

今日はこれらのご相談やお声を踏まえて、特に精神障がいを持つ人への業務の切り出し方についてお話ししていきたいと思います。

大前提としては、障がいを持っている人でもそうでない人でも、各人ごとに適性がある仕事とそうでない仕事があるという点は変わりません。同じ障がい名を持った方であっても、それぞれに「得意・不得意」「向き・不向き」「好き・嫌い」があります。
ですが、これまであまり障がいを持つ社員の雇用の経験がない企業で新しく業務切り出しを考える上では、まずは、多くの人が大きな負荷を感じることなく遂行することができ、且つ、業務の質を担保できるものから着手するのが良いようです。

具体的な業務を洗い出す際には、配属を想定している部署の業務の中から次の観点に合致するものを見つけ出すことを意識します。

  • 期限(納期)に余裕があるもの
  • 業務フローが一定化していて例外対応が少ないもの
  • 担当部署以外の部署や社外とのやり取りがない(少ない)もの
  • 業務を進める上で担当者が判断しなければならないことがない(少ない)もの

これらの観点で見ていった上で、切り出しが可能ではないか?と考えらえる業務としてよく挙がるのは次の様な業務です。

  • 書類の電子化(PDF化)
  • Excelや専用システムへのデータ入力
  • イベントや会議で使用する配布資料のセット
  • ネット上の業界動向や自社に関する情報収集
  • データや文章の正誤チェック
  • 書類発送業務

ここで、もう一つポイントがあります。
上で挙げた様な具体的な業務が思い当たらなかった場合、その周辺業務についても考えを巡らせてみてください。現在の業務を細かく切り分けることで、これらの業務を障がい者社員向けの業務として切り出すことができる場合もあります。別の言い方をすると、現在は意識せずに一つの業務として行っているものを分解して、前後の工程を切り出すことができないか?ということも考えていただくということです。

切り出す業務を考える上でのポイントをさらにもう一つ。
今は出来ていないが、余裕があればやっておきたい業務はないか?という観点で考えていくのです。
その際には、業務の優先順位を整理する際によく使う、「緊急度」と「重要度」のマトリクスが有効です。
このマトリクスを使って業務を洗い出してみたときに、
・“緊急度は低い”が“重要度が高い”もの
に分類されるもので、やれていないものがあれば、ぜひ切り出しの検討をしてみてください。
実際には、税務署や労基署の調査が入った時に証憑として提出する経理上の伝票や、年末調整の書類、勤怠管理シートなどが紙のまま倉庫保管となっているために、いざ提出を求められた時に、倉庫から原本を取り寄せるのに時間と手間がかかってしまっているとか、ファイルの中から探すのが大変だ、というのは複数の企業の生の声として聞かれます。
こうした書類の電子化(PDF化)は、緊急性は低く、忙しい日常ではなかなか手が回らないのが実態ですが、だからこそ障がい者社員の業務として定型業務にしておけると思います。

以上、今回は今まであまり障がいを持つ社員に業務を切り出した経験がない企業の人事の皆さんに向けてお話をしましたが、この領域についてお話したいことはまだ全部書ききれていません。

ですが、お話しきれてはいないことをギュッと凝縮すると、障がい者社員への業務切り出しにあったっては、

今ある業務をそのまま切り出すのではなく。
今ある業務フローをそのまま切り出すのでもなく。
そして、今ある組織の中でそのまま担当するのでもなく。

ということではないか、と考えています。
従来からの固定的な業務の仕方に捉われず、新しい発想で考えることが大切だな、ということです。

そういう意味では、障がいを持つ社員への“業務切り出し”という範疇に留まらず、本来は創造的な“職域開拓”であることを意識していきたいと常々考えています。

<プロフィール> オフィス温度28℃代表。専門分野は、障がい者の雇用支援、人材育成、キャリア支援。「自身の特性に向き合う人たちが尊重し合い、自走しながら事業に貢献する組織創り」を基本理念としている。 梶原 温美(かじはら はるみ)
オフィス温度28℃代表。
専門分野は、障がい者の雇用支援、人材育成、キャリア支援。
「自身の特性に向き合う人たちが尊重し合い、自走しながら事業に貢献する組織創り」を基本理念としている。
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この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障がい者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。

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